モンゴルチームメンバーがウランバートルで行なわれた全国レベル教員研修に参加

東京工業大学は9月10日から14日の5日間、モンゴル国立教育大学、モンゴル教育省、JICAとの協力のもとSTEM教育でのデジタル教材開発のための全国レベル教員研修を実施した。当研修は山口・高田研究室が現在携わるJICA草の根技術協力事業「モンゴルにおける地方中学校教員の質の向上-ICTを活用した地域に根差したSTEM研修教材開発を通じて」の一環として実施された。山口高田研究室からは山口教授、Li(博士課程3年)、平井(博士課程3年)、Mai(修士課程1年)が参加した。全国21県とウランバートル市(UB)9地区から124名のメソドロジストがUBに集まった。研修の目的はモンゴル21県とUB市9地区の中学校担当メソドロジストがデジタル教材開発の知識と技術を身につけることであった。初日は教育分野でのICT活用の動向、モンゴルにおけるICT活用の事例、ビデオ教材作成の手順と留意点、Camtasiaプログラム(画面録画・動画編集ソフト)の使い方などの全教科に関わる研修が行なわれ、二日目からは、化学、生物、物理、デザインと技術、歴史、地学、数学、情報の教科に特化した研修が行なわれた。


全国研修での集合写真

研修の初日は、初めにモンゴル国立教育大学副学長Tamir氏、モンゴル教員研修センター長Surenchimeg氏、山口教授、モンゴル教育省Tsolmon氏、プロジェクト実行委員メンバーBat-Erdene氏 がプロジェクトの実施に至る経緯に対する感謝と期待について述べた。Surenchimeg氏、Tsolomon氏からは、教員研修の効果をモンゴル全土に伝えていくことの重要性に触れ、研修に参加したメソドロジストが得た知識を各地域、学校に持ち帰って研修を実施していくことを強調した。山口教授は25年に渡るモンゴルとの協力に触れ、12年前モンゴルの教員研修にICTを導入するアイデアを提案した中学校教員とプロジェクトができることに対する喜びを伝えた。Bat-Erdene氏からはこれまでのプロジェクトの成功の要因として教員同士の協力が必要であることが伝えられた。

初日に実施された六つの研修内容の一つ目はSukhbaatar教授による前草の根事業「モンゴルにおける地方小学校教員の質の向上‐地域性に即したICTを活用した教材開発を通じて」の成果の共有であった。Sukhbaatar教授はプロジェクトが小学校教員のICTの活用と教育能力開発に大きな変化を生んだことを伝えた。例えば、プロジェクトの5年間のうちで教員の授業準備におけるコンピュータの活用時間が8.3%増加したことが確認された。また、教員の能力に関して、優秀教員として認定された教員がプロジェクトの実施前の5年間と、実施後の5年間の平均で11.32%増加したことが確認された。

二つ目の内容はモンゴル教員研修センター(ITPD)の専門家Oyuntungalag氏による, 教員研修におけるICTを活用事例の紹介であった。教員研修の動向に関して、持続可能な開発目標と関連付けた説明を行ない、学校と教員、市民の生涯を通した学習と平等な教育の実現において重要な役割をもち、持続可能な教員開発の重要性を強調した。こうした背景のもと、ITPDは8種類の教員ポータルを提供している。例えばesurgalt.itpd.mnでは教員が45日間の研修プログラムを受けることができ、www.teacher.itpd.mnでは43種類のの教員研修教材が活用できる。teacher.itpd.mnには現在24,839種類のコンテンツが教員によってアップロードされており、他の教員からのフィードバックを得ることでも有効に活用される。

三つ目の内容はメディア専門家のTurmandakh氏によるドキュメンタリー動画の作成に関する研修であった。Turmandakh氏は自身のジャーナリストとしての経験をもとに動画撮影、録音、編集の手順と留意点について講義した。学校レベルでビデオの作成を効果的に行なうために教員間で経験と知識を共有することが重要であると述べた。


山口教授がモンゴルの教育とのこれまでの関わりを紹介

四つ目の内容ではモンゴル国立教育大学のTsedevsuren教授が近年のICTの教育分野での活用事例について講義を行なった。Tsedevsuren教授はICTの発展が教育あたえる影響を説明し、専門分野に関わらずICTを活用した教育を行なう必要性について述べ、ICTを教育に活用する上で、従来の教授法、生徒中心の教育とICTを活用した教育を融合することが重要であると伝えた。

五つ目の内容はモンゴル国立教育大学のAmartuvshin氏によるデジタル研修教材の作成についての講義であった。質の高いビデオ教材を作成するためには事前に具体的なストーリーラインを作ることが重要である。ストーリーラインを作成することで、ビデオ撮影の事前に必要なシーンの内容と種類、必要な音声を確認することができる。

最後はTsedevsuren教授が担当し、Camtasiaプログラムを活用した録画と編集の実践を行なった。教員にはCamtasia プログラム(バージョン9)の試供版が配られ、説明に従い実際に自分のパソコン上でプログラムを動かしながら画面録画と編集を学んだ。

二日目は化学と生物の専門家チームによる研修が行われた。モンゴル国立教育大学専門家化学担当チームのSumiya教授による講義では、生徒中心の教育に関する説明があり、教員の役割は、生徒が自ら問題を設定し解決策を見つけることを手助けすることであると伝えられた。またICTの活用については、特に地方の中学校で研究資料や実験室が不足していることに触れ、そうした環境の中で生徒の化学に関する学習意欲を高める上で効果的であると述べた。同化学チームのMunkutuya教授とはビデオ教材で紹介される実例を用いながら科学の抽象的な概念と専門的な用語を教える方法について説明した。同化学チームのNorovsuren氏はスマートフォン上で使える化学のアプリケーションを紹介した。

午後には生物チームのPagmasuren教授が講義を行なった。新教育法基準によって生物の授業は実験を中心に行なわれたことを受け、実験の進め方が説明された。実験の進め方は、1)課題の特定、2)モデルの適用、3)実験の計画、4)数学的な処理によるデータの整理、5)データ分析、6)外因の考察、7)科学的な説明、8)フィードバックと評価の8段階で行なわれる。講義をもとにした実践的な研修も行なわれ、研修の参加者は、各地域のチームでロールプレイを行ない、実験における役割の分担、計画について話し合い、結果を全体で共有した。ロールプレイの後でOrchlon 学校のChinzorig 氏が生物の授業で活用できるソフトウエアとしてバーチャルラボラトリやweb顕微鏡、対話型教材を作成するHotpotatoプログラムを紹介した。

過去の経験を共有する参加者

三日目には東工大チームのLiと平井が前年にモンゴル国立教育大学の教授と協力して開発した対話型教員研修教材の紹介と実演を行なった。教材は数学、化学、デザインと技術、歴史と社会を対象に開発された。教材がスクリーンに映され、Orgilmaa氏が通訳をしながら実演が行なわれた。メソドロジストは映された問題に対して積極的に回答をするなど、教材に対する高い関心が見られた。

 東工大チームの発表のあと、モンゴル国立教育大学専門家物理担当チームがCamtasiaプログラムをつかったビデオ教材の作成方法に関する講義をおこなった。物理チームのJargalsuren氏は生徒中心の教育に触れ、生徒が自分で目的を設定して情報収集の方法を考えることの重要性を述べた。また生徒の評価にICTを活用する方法についてGoogle formを使った回答の収集と評価の実践的な研修が行なわれた。午後はデザインと技術のチームが研修を行なった。Chulunaa 教授が技術とデザイン科目のカリキュラムでICTを活用する方法を具体的に説明した。例えば6年生の授業ではコンピュータ上の描画ツールで作画をすること、7年生はコンピューターのプログラムをつかってイスのデザインをすること、8年生は3DのモデルをAutoCADやFashon CADをつかって作れるようになることができるようになると述べた。講義に続いてKhukhu教授とLkhagvadorj 教授が実践的な研修を行なった。デザインと技術のチームが作成したビデオ教員研修教材を実演し、教材の改善点と、各地域でビデオを作る場合扱うコンテンツについてチームで話し合った。ホブド県のチームはビデオ教材を作る際にビデオの視聴者を具体的に想定し、視聴者のニーズに沿った内容にすることが重要であると意見を述べた。また、取り扱いたい内容として“Dalda”と呼ばれる伝統的な楽器についてビデオ研修教材をつくりたいと意見を述べた。スフバートル県のチームはビデオの説明をナレーションとして挿入するのではなく、登場人物の会話形式にして行なうほうがより魅力的になると述べた。

対話型教員研修教材の紹介をする東工大チーム

4日目、東工大チームはモンゴル教育省で開催されたキックオフミーティングに参加したため、研修には参加しなかった。(キックオフミーティングの記事はこちら)

5日目は数学と情報の専門家チームによる講義と実践研修が行なわれた。数学チームのRavdanjamts教授は”Okkony”という教授法を紹介した。この方法はモンゴルの著名な教授によって書かれた“Education Innovation” で説明されており、1)問題の特定、2)課題のモデル化、3)仮説設定、4)課題の解決と仮説の検証、5)解法のモデル化と結論の5段階から成る。Ravdanjamts教授は三角形の内角の和を例にこの手法を説明した。教員の役割は解法を伝えるだけではなく、生徒に解法を導かせることであり、教員にはその技術が求められる。講義のあと、情報チームのTsedevsuren教授が実践研修を行なった。情報技術が浸透している現代において情報技術を指導要綱に組み入れることは必要不可欠となる。その中で情報の授業の役割は1)情報技術に対する法律上、倫理上の適切な活用環境の構築、2)生徒のICTリテラシーの向上、3)すべての人のアクセスを可能にすることである。これらの目的に従いCamrasiaやDreamweaver, Exe learningなどの関連したフリーオープンソースソフトウエアが紹介された。研修の最後には数学の担当チームによる実践研修が行なわれた。Jadambaa教授は授業において生徒の主体的な参加を促す方法として、ホワイトボードを用いて、三角形の角度の求め方を生徒主導で考えていく方法を実践した。

モンゴル全国から124名のメソドロジストが参加した五日間の研修は計画通り大きな成果をもって完了した。研修をうけたメソドロジストは各県に帰りクラスターレベルのでの研修を実施する。研修内容は各地域の状況に合わせて再構成され、モンゴル全国の中学校の先生に伝えられる。全国研修への参加は東工大チームにとっても学びの多いものとなった。

Li: 全国21県9地区の124名のメソドロジストが参加した教員研修に参加したことは非常に貴重な経験であった。研修の特徴として各8教科の専門家チームが様々な情報技術を活用しながら生徒中心の指導法を実践的に伝えていた点があげられる。研修を通じてメソドロジストの先生は動画編集ソフトの活用方法を学んだ。その経験がこれから各地域に伝わり、地域独自のビデオ研修教材ができあがることが楽しみである。プロジェクトが円滑に進み、大きな成果をもたらすことを期待している。

平井:124名のメソドロジストが参加する全国研修に参加する機会を得られたことに大変感謝をしている。ICTが教育に大きな変化をもたらすことが期待される一方で、参加者や専門家チームがICTを一つのツールと考え、教育の目的の実現が強調されるべきであるという意識を強調していたことが印象的であった。正しいツールを正しく選択し、従来の教授法とうまく融合させながら使うことが重要であることを学んだ。これから全国研修での学びが各地域に伝わり日々の教育活動で活用されるのか興味がさらに増した。

Mai:情報技術が学部時代の専攻であったことから、情報技術に関して学ぶことが多かったが、実際に情報技術の教育への利用についてこれだけの人が集まり議論と実践をする場面を見た事はじめてであった。メソドロジストの先生がICTの導入と知識の取得に対して高い意欲をもって望んでいたことが印象的であった。さらに、ただ技術を紹介するのではなく、それをいかに地域の特色と専門分野、現場のニーズに合わせて活用していくかを説明していた。これからもプロジェクトの成功のために現地のメソドロジストや教員と協力をしていきたいと思った。

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