平成26年度事業(フェーズ2)

「アジア・太平洋地域6カ国の教育現場における『21世紀型スキル』育成のための教育活動の現状分析及び参加型教育政策データベースの構築」(2014年4月~2015年2月)

【各活動の概要および成果】

1 アジア・太平洋地域6カ国の教育現場における「21世紀型スキル」育成のための教育活動の実施現状分析

2014年4月~2015年2月にわたり,アジア地域の基礎教育政策を21世紀型スキルの観点から比較分析することを目的とした研究活動を実施した.
本研究活動は2つの要素から構成された.第1に,ユネスコバンコク事務所及びアジア・太平洋6ヵ国の教育専門家と協働のもと,「21世紀型スキル」育成の教育の実施状況について参加国で学校調査を実施し,国別レポートを作成した.第2に,後述の地域シンポジウムでの検討,および教育専門家の協力を通じ,国別レポートの結果をアジア・太平洋地域10カ国・地域の地域レポートとしてまとめた.

当初はアジア・太平洋地域6カ国で調査を開始したが,4カ国・地域から参加申し出があり,最終的には10カ国・地域(日本,韓国,中国,モンゴル,マレーシア,タイ,オーストラリア,インド,フィリピン,ベトナム)が比較研究に参加することとなった.

図:研究参加国10ヶ国・地域

  1. 国別レポート
    各国の国別レポートは、1)「21世紀型スキル」の育成を促進する教授法,2)「21世紀型スキル」育成に係るカリキュラム,3)学校教育方針,4)留意点,教訓や成功事例等などの多様な観点から分析された.後述の専門家会合で策定された研究フレームワークに基づき,各国の調査では,学校経営計画などを含む文献調査,学校長や教員を対象としたアンケート調査,聞き取り調査,授業観察などが行われた.各国・地域での調査分析は2014年4月~6月に開始され,2014年11月に実施された地域シンポジウムにて専門家間で共有・検討した後,2014年12月末に最終レポートとして提出された.■国別レポート (under construction)
  2. 地域レポート
    上述の国別レポートの結果を比較分析し、その結果をアジア・太平洋10カ国・地域の地域レポートとしてまとめた。地域レポートでは研究参加10ヶ国・地域において,21世紀型スキル育成を促進する教育政策やカリキュラムが,学校経営方針や教育目標,カリキュラム等にどのように反映されているか,「21世紀型スキル」育成のための教授法や評価などといった観点から,各国レポートの結果を分析した。研究の主な成果として各国の教育政策育成における「21世紀型スキル」促進の方針は,調査に参加した各学校の教育経営計画や教育目標に反映されており,「21世紀型スキル」育成の重要性は,学校長や教員にも認識されていることが確認された.また,教育現場(学校レベル)においては,「21世紀型スキル」育成について教員の役割が変容してきていることが示唆された.コミュニケーション能力,批判的思考能力などで構成される「21世紀型スキル」はその教授の際,多分に学習者の実践を通じた学びを必要とするため,教員が一方向から知識を教えるのではなく,「ファシリテーター」として生徒の経験,自発的な学びを促進する必要があると多くの教員が認識していることが分析の結果得られた.一方で,そのような役割の変化,教育アプローチの変化に対して,教員への支援(訓練機会,指導用教材等の教員支援,教授法の情報共有等)が必ずしも充分ではなく,「21世紀型スキル」育成に不安を感じている教員も多いことが示された.■地域レポート(under construction)

2 国別調査のための調査ツールの検討

国別調査の事前準備として2014年4月1日から2日間にわたり,調査ツール検討のための専門家会合がタイ,バンコクで実施された。専門家会合にはアジア7カ国(日本、中国、韓国、マレーシア、フィリピン、スリランカ、タイ)の政府関係者・教育専門家、およびユネスコバンコク事務所の代表者計@名が出席した。本会合では「アジア6各国における21世紀型スキル育成に係る教育活動の実施現状分析への準備として次の3点を実施した。

  1. 前年度の研究結果の共有及び本事業の国別調査の位置づけ確認
  2. 教育現場に焦点をあてた分析ツールの共有
  3. 調査実施スケジュールの決定,

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3 参加型教育政策データベースの開発/利用促進

情報を収集・共有する仕組みの必要性は、ユネスコバンコク事務所主催の専門家会議で繰り返し言及されてきたものの、同事務所の既存の情報ポータルやデータベースは情報収集・共有のニーズに十分に応えるものではなかった。これを受け、 平成25年度事業よりはユーザーの更なる参加、および利便性向上にむけ、既存の情報ポータルやデータベースを一つの参加型の教育政策データベースとして再構築する活動に取り組んできた.平成25年度事業時にベースを構築した基本4機能に加え,平成26年度事業時にはユネスコバンコク事務所の担当者,教育専門家や教育政策専門家の意見を踏まえ,更に2機能を追加し計6機能を備えた参加型教育政策データベースとして構築した(下記表参照).

表:参加型教育政策データベースの機能一覧(出処:筆者作成)

なお,平成25年度事業時にはDrupalをベースとして開発を行っていたが,機能間の連携の実現に困難が生じたため,ユネスコバンコク事務所と相談の上,WordPressに変更している.

図:参加型教育政策データベースのログイン画面

参加型教育政策データベース(英語,ユネスコバンコク事務所ウェブサイト内)
*登録には,履歴書(英文)をnespap(at)unesco.orgまで送付する必要があります.

4 東工大・ユネスコ共催地域シンポジウム開催

アジア・太平洋地域10カ国・地域の21世紀型スキルに係る教育現場での実践調査の共有・検討の場として、2014年11月26日~28日、中国,杭州市において地域シンポジウムをユネスコバンコク事務所と共催した。本会合には、アジア・太平洋地域15ヶ国・地域(オーストラリア,香港(中国),カンボジア,中国,日本,モンゴル,インド,インドネシア,マレーシア,モンゴル,フィリピン,韓国,スリランカ,タイ,ヴェトナムから参加した.)の政府関係者・教育専門家、およびユネスコバンコク事務所の代表者計40名が出席した。

シンポジウムでは、研究参加国の専門家が各国の教育政策おける21世紀型スキルの導入状況について分析結果を発表した。多くの国で,教育政策にみられるような21世紀型スキルないしは包括的な人間教育が学校の経営方針にも反映されていることが共有された.同時に,各国・地域では様々な21世紀型スキル育成に係る教授法が工夫され,実践されていることも共有された.日本の事例として,東京工業大学から山口しのぶ教授と山本祐規子研究員が,秋田を中心とした日本の学校での取り組みを紹介した.発表では,主に秋田県の教育政策及び秋田県の各学校の学校経営方針の分析及び秋田県の学校の管理職・教師277人から得られたアンケート結果,学校単位での様々な教授法の工夫例が報告された.また,参加した専門家からは「21世紀型スキル」育成にあたって,教員に求められる役割が変容してきていることやそのための研修機会や支援体制が必ずしも充分ではないという懸念点が共有され,平成27年度に教員をテーマに更に研究を深化させていく必要性などが強調された.

図:地域シンポジウムでの集合写真(2014年11月26日~28日)

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