平成25年度事業(フェーズ1)

「アジア6カ国の教育政策における『21世紀型スキル』の比較分析と参加型教育政策データベースの構築」(2013年4月~2014年3月)

【各活動の概要および成果】

1 アジア6カ国の教育政策における21世紀型スキルに関する比較分析

本研究活動は次の3つの要素から構成された。第1に、各国の教育政策における21世紀型スキルに関する分析を通じて国別レポートを作成した。第2に、教師、生徒からの意見を反映させるため、21世紀型スキルに関するe-コンテストを実施し、エッセイとビデオの2形式で意見を収集した。第3に、後述の地域シンポジウムでの検討、および教育専門家の協力を通じ、国別レポートの結果をアジア・太平洋地域10カ国・地域の地域レポートとしてまとめた。

当初はアジア・太平洋地域6カ国(日本、韓国、中国、モンゴル、マレーシア、タイ)で調査を開始したが、更に4カ国・地域(オーストラリア、インド、フィリピン、香港)から参加申し出があり、最終的には10カ国・地域が比較分析に参加した。

図:比較研究参加国10ヶ国・地域

1) 国別レポート

各国の国別レポートは、以下4項目を含む多様な側面からの分析が行われた。

  1. 各国での教育改革状況と21世紀型スキルの位置づけ についての分析
  2. 教育政策における21世紀型スキル反映状況と普及・推進のための方針による分析
  3. カリキュラム分析
  4. 留意点、教訓や成功事例等の分析
  • 国別レポート

2) E-コンテスト「より良い未来のためのスキル~Skills for a Better Life」

アジア・太平洋地域の教師、生徒を対象として、「21世紀型スキル」をどのように捉え、実際に学校でどのような形で教授、習得しているかを募ったE-コンテスト「より良い未来のためのスキル~Skills for a Better Life」を実施した。アジア・太平洋地域のインフラ、およびデジタル環境に合わせ、エッセイ部門とビデオ・動画部門の2部門を設定。(ユネスコバンコク事務所のホームページにて作品を募集 2013年8月~2013年12月)

テーマは、あなたにとっての『21世紀型スキル』、『より良い未来のために必要だと思うスキル』。コンテストでは、アジア・太平洋地域に加え、アフリカ、ヨーロッパを含む世界20カ国から197の応募があり、審査の結果、エッセイ部門からは7点、ビデオ部門からは3点の優秀賞が選出された。審査結果はユネスコバンコク事務所ホームページ上にて発表(2014年2月)

図:E-コンテスト募集ページ(日本語版)

3) 地域レポート

上述の国別レポートの結果を比較分析し、その結果を教育専門家(香港大学Kai-ming Cheng教授)の協力を経て、アジア・太平洋10カ国・地域の地域レポートとしてまとめた。地域レポートでは研究参加10ヶ国・地域における21世紀型スキル重視の背景、カリキュラムへの21世紀型スキル導入方法、21世紀型スキルの類似性と多様性といった観点から、各国レポートの結果を分析した。
研究からの主な成果として、多くの国で創造的思考や対人スキル等を重要視する類似性と、例えば韓国でされている「ICTの倫理的利用」やフィリピンの宗教・文化的背景を含めた「道徳」(Moral and Spiritual Values)等、それぞれの国が提唱するスキルの多様性という二面性が分析結果として得られた。
また、全ての参加国において、政策レベルでの「21世紀型スキル」育成の重要性が確認された反面、政策と教育現場での実施に差異があるという懸念が共有された。

2 政策比較分析を体系化するための専門家の会合(事前準備)

「政策分析を体系化するための専門家会合」は申請書提出後、本活動に必要な事前準備として2013年3月7日から8日にユネスコバンコク事務所と東京工業大学国際情報センターの研究資金にて実施された。専門家会合にはアジア7カ国(日本、中国、韓国、マレーシア、フィリピン、スリランカ、タイ)の政府関係者・教育専門家、およびユネスコバンコク事務所の代表者計45名が出席した。本会合では「アジア6各国における21世紀型スキルに関する比較分析」への準備として次の4点実施した。

  1. 本研究における21世紀型スキルの定義共有
  2. 各国での教育政策分析の調査枠組みの決定
  3. 調査ツールの精査
  4. 調査実施におけるスケジュールの確認・合意

関連記事:

3 参加型教育政策データベースの開発

情報を収集・共有する仕組みの必要性は、ユネスコバンコク事務所主催の専門家会議で繰り返し言及されてきたものの、同事務所の既存の情報ポータルやデータベースは情報収集・共有のニーズに十分に応えるものではなかった。これを受け、 本事業ではユーザーの更なる参加、および利便性向上、既存の情報ポータルやデータベースを一つの参加型の教育政策データベースとして再構築することを目指した。
尚、開発にあたっては、ユネスコバンコク事務所と協議し、同事務所の既存データベースの構築に使用されているオープンソースソフトウェアのDrupalを利用した。

第1フェーズの開発期間に、参加型教育政策データベースで必要とされる個別機能の開発には成功したものの機能間の連携を実現する時点で困難が生じた。機能間の連携が困難であった理由としては、以下の2点が挙げられる。第1に、オープンソースソフトウェア であるDrupalが提供している基本モジュールは様々な開発者によって個別に開発されており、モジュール同士の互換性が必ずしも十分に考慮されていなかったという点である。第2に持続可能性への配慮がある。今回の開発方針は、メンテナンスの容易性、持続可能性の観点からモジュールの改編は行わず、基本モジュールのみを用いるというものであり、各機能の実現には合わせて83個もの基本モジュールを用いた。これらの連携をモジュールの改編を行わずに実現するのは極めて複雑な作業であり、実現したとしてもその複雑な連携のメンテナンスが継続的に必要とされることになる。これらの点から、第1フェーズを通じ、参加型教育政策データベースの開発方針変更の必要性が明確となった。

第2フェーズでは、開発後の保守管理の容易性等も考慮しながらDrupal以外での開発方針を採用する。開発方向性として、既存のwebサービスを組み合わせて必要機能を実現することやDrupal以外のコンテンツマネジメントシステムを利用して構築することなどが検討されている。

4 東工大・ユネスコ共催地域シンポジウム開催

アジア・太平洋地域10カ国・地域の21世紀型スキルに係る教育政策比較分析の共有・検討の場として、2013年10月17日~19日、タイ国バンコクにおいて地域シンポジウムをユネスコバンコク事務所と共催した。本会合には、アジア・太平洋地域12ヶ国・地域(日本、中国、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、スリランカ、インド、タイ、オーストラリア、香港、シンガポール)の政府関係者・ 教育専門家、およびユネスコバンコク事務所の代表者計52名が出席した。

シンポジウムでは、研究参加国の専門家が各国の教育政策おける21世紀型スキルの導入状況について分析結果を発表した。各国とも、グローバル化する社会・経済、ICTの普及など新しい教育ニーズに対応するべく教育改革を行っており、21世紀型スキル育成の重要性は各国で認識されていることが共有された。一方で、教育政策の中に21世紀型スキルが多くの参加国の教育政策で重要な要素として位置づけられている一方、教育現場での実践には政策との差異があるという懸念点も共有された。この点を踏まえ、21世紀型スキルの育成を促進している教育政策が、教育現場でどのように実施されているのか、第2フェーズではこの点について教育現場での実践分析を行うことが合意された。

また、各国の専門家間の議論の中で、21世紀型スキルは、必ずしも一つの分野や技能に特定されるものではなく、様々な分野の知識やスキルを横断した個人の特性や能力ではないか、という考え方から、より広範で多義な用語として21世紀型スキルに加え、 「transversal competencies」という用語を本比較研究内で利用することを合意した。

図:地域シンポジウムでの集合写真(2013年10月17日~19日)

関連記事:

【本事業における主な成果物一覧】

Print Friendly, PDF & Email