JICA草の根技術協力事業 フェーズ2 (2018-)

背景

モンゴルの社会的・経済的背景

モンゴルは,世界銀行(2016年)によると,GDPランキングは199か国中126位とアジアの中でも低中所得国とされている。モンゴルでは,90年代の計画経済から資本経済への移行に伴い,民主主義拡大政策の一環として,二度(1993年,2003年)にわたり新教育法が施行された。その結果,公立学校の管理,運営義務の大部分が地方分権化され,自由度や独自性が尊重されると同時に,地方の教育行政官,学校長や教員の役割が大きく拡大した。その中で,教育分野へのICTの導入は,教育の質を向上・維持するための重要な要素として注目されており,教育とICTの融合は,持続可能な教育開発を促進する手法として期待されている。

モンゴルの基礎教育分野における近年の特徴として,1)教育の12年制度導入による教員の役割の増大;2)都市と地方の格差の拡大;3)2016年に施行された『コアカリキュラム』における地方の現状に則した学習指導案の奨励;4)教育基本計画における ICTの活用重要性の明記; 5)国際開発プロジェクトによる地方の学校への機材が導入,などがあげられる。

教育とICTに関する国際的な動向

近年の目覚しいICTの発達を受け,国際開発分野におけるICTの導入はますます注目を集めている。ICTの活用は持続可能な開発目標(SDGs)においても, ゴール4「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し,生涯学習の機会を促進する」,ゴール5「ジェンダーの平等を達成し,すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」,ゴール9「リジリエントなインフラを整備し,包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに,イノベーションの拡大を図る」,ゴール17「持続可能な開発に向けて実施手段を強化し,グローバル・パートナーシップを活性化する」と複数のゴールで明記されており,開発目標を実現するためのICTの活用は,今後ますます重要になると考えられる。

この様な背景のもと,モンゴル政府は,教育基本計画(2016-2020)において,ICTの活用は生涯教育を促進するためのツールであると示し,具体的には,「ライフスキルの育成を含めた地域課題解決に資する学習ツールとしてICTを活用する」と明記している

プロジェクト概要

本研究室は、2018年7月より、ユネスコ、モンゴル教育文化科学省、モンゴル国立教育大学(MNUE)との連携のもと、JICA草の根技術協力プロジェクト「モンゴルにおける地方中学校教員の質の向上-ICTを活用した地域に根差したSTEM研修教材開発を通じて」の実施計画を進めている。本プロジェクトは、現地のニーズに合ったデジタル教員研修教材を開発し活用することで,地方中学校教員の授業における指導力と教授能力が向上することを目指す。

2012年から2017年にかけてモンゴルの小学校教員を対象に実施されたJICA草の根事業「モンゴルにおける地方小学校教員の質の向上」の成果をうけ、その活動を中学校に拡大する事でモンゴルの基礎教育全体の質の向上に貢献することが期待される。(前草の根事業の詳細についてはこちら)。

事業の妥当性

地方の小学校における研修活動が,小学校教員のスキル向上に貢献している一方で,中等教育におけるICTの教育活動への応用は遅れを取っている。モンゴルの基礎教育全体の質の向上のためには中学校教員への研修の実施と研修教材の開発は急務である。特に本事業ではモンゴルの中学校の教育現場における以下5点の課題に取り組む。

  • 基礎教育全体の向上のため、地方小学校の研修事業の成果を中学校に拡大する必要性
  • 教員の教育活動へのICTの応用スキルの欠如
  • 基礎教育最終年度における地域間の学力の格差
  • 専門的知識を高める教員研修の機会の減少
  • 子ども中心の教育が実施できているかどうかを自己評価する手法の欠如
これまでの成果、これから期待する成果と活動内容

本事業では以下5つの成果の達成を目指し活動を実施する。

1.高品質の教員用デジタル研修教材制作を支援するための教員養成機関(モンゴル国立教育大学)の体制が強化される

プロジェクトの活動を通して教員の教材作成や研修の実施に対してアドバイスを提供するMNUEの専門家チームが結成された。8教科を対象に24名の教授とデジタル教員研修教材の作成を担当する技官が専門家チームに参加し、研修を受講した。

研修を受講するMNUEの専門家チーム

対象となる教科は:

  • 化学
  • 生物
  • 物理
  • デザインと技術
  • 歴史と社会
  • 地学
  • 数学
  • 情報

研修はデジタル教員研修教材の作成を目標に東工大とMNUEの協力のもと、2018年の8月13日から17日にかけて行なわれた。

講義をするBasandorji教授(歴史と社会担当)

研修を通じて、専門家チームはこれからプロジェクトのなかで教員が作成するデジタル研修教材についての理解を深め、研修などで教員にアドバイスをする上での実践的な準備を行なった。研修の成果として具体的には、MNUEの専門家チームがデジタル研修教材の作成に向けての体系立ったアドバイスの方法を身につけた、MNUEの専門家チームが研修用のマニュアルを完成させた、の二点があげられる。

2.モンゴル21県とウランバートル(UB)市9地区の中学校担当メソドロジストが,デジタル研修教材開発の知識と技術を身につける

カスケードモデルの活用

少ない人口が広い国土に点在するモンゴルにおいて,研修事業を草の根レベルで効果的かつ効率的に実施するためにカスケードモデルを活用する。全国21県、9地区の中学校担当メソドロジストがMNUEで実施される研修に参加し、研修内容をもとに各県レベルで全国の中学校教員を対象にした研修を実施する。カスケードモデルを活用した研修により約28%にあたる2,250名の教員が直接研修をうける。さらに研修に参加した教員が各学校レベルでの研修を実施し、本事業の効果がモンゴル全土に普及する。デジタル研修教材を開発する能力と技術を学ぶ研修は, 1)各県代表の研修チームの形成,2)メソドロジストの育成,及び3)各県・UB地区における地方研修の実施を軸に行なわれる。

全国レベル教員研修

東工大とMNUEの協力のもと2018年の9月10~14日に全国レベルでの教員研修が行なわれた。研修ではデジタル教員研修教材の作成に必要な知識の体系的な説明や、その実践としてオープンソースソフトウエアの活用などの実践が行なわれた。モンゴル全国21県とウランバートル9地区から132名のメソドロジストが研修に参加した。

全国研修の詳しい情報はこちらから。

3.地方中学校教員が,現地のニーズを反映したローカルコンテンツを含むSTEM教科中心の教員研修教材を開発し,活用できる

クラスターレベル教員研修

各県を5つのクラスターに分けて実施されるクラスターレベル教員研修が2018年の10月から12月にかけて行なわれた。全国レベル教員研修に参加したメソドロジストが講師となり、中学校教員を対象に、デジタル研修教材の作成に関する体系的な理解と実践についての研修を行なった。各県につき約75名、合計で2208名の教員が研修に参加した。

東工大モンゴルチームはBayankhongor県Buutsagan村での研修に参加した。詳しくはこちらから。

4.地方中学校教員が現地の教員研修教材を活用し,子ども中心の指導法を積極的に取り入れ,生徒を教授できる

デジタル教員研修教材を活用し,地方4県・UB市ゲル1地区にて教員研修を実施する。この教員研修は,事業パートナー4県・UB市ゲル1地区の全中学校を対象とし,各校から教員に加え学校長、研修担当教員が参加する。新しい研修教材の効果的な活用のため,教員、学校長、研修担当教員の連携が重要視される。さらに研修の参加者を通して教員研修教材の利用が周辺の学校に普及することが期待される。

5.10校のモデル校にて, 子ども中心の指導法を取り入れた授業用教材が開発され,近隣の学校へ広く普及されることで,地方中学校教員の教授の質が向上する

地方4県とUB市ゲル1地区から10 校のモデル校を指定し,デジタル研修教材により多様な教授法や指導法を学んだ地方の中学校教員の,子ども中心の教育を促進する授業の実施状況を確認する。各モデル校では,3 人の教員からなるコアチームを中心に教員研修で習得した知識やスキルをもとに,授業用教材,授業計画,指導案等を作成する。事業の2年目には,10人の教員代表チームは,研修として日本の学校を視察し,中学校で実践されている指導法を学ぶ。帰国後には,モンゴル教育大の専門家チームの指導のもと,日本の学校でのグッドプラクティスを利点と留意点で整理し,どの様に自校で活用するかを計画し,実践への応用を目指す。

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