ラオス

ラオスの世界文化遺産ルアンパバーンでの研究活動

n


図1
GISを活用した16村における景観の変化の分析(2017-現在)
  1. 背景・研究目的

1995年にルアンパバーンは世界遺産に登録され多くの観光客が訪れる街となっている。2007年のユネスコのモニタリングレポートは、観光客増加による開発が世界遺産の景観美に悪影響を与えていると報し、その街並みの景観がどのように変化しているのかを分析するために最新のデジタルマップを作成することを提言している。それを受け2009年に、山口・高田研究室は世界遺産を管理しているルアンパバーン世界遺産局(DPL)と協働のもと地理情報システム(GIS)を導入し、遺産地域の中心部6村における景観の分析を通じ、様々な変化に関する分析を行なった。遺産登録後22年が経った2017年現在、DPLは世界遺産マスタープラン(PSMV)の改定を実施している。しかしながら、2010年以降は、景観の変化の分析が実施されているため、データを更新した遺産地域の中心部における景観の変化の分析を行なうことは急務とされる。

本研究は、上記のニーズを受けて、次の3点を研究目的とした:1)GISを活用して1999年と2010年、2017年における世界遺産地域の景観を可視化する、2)景観の変化の分析を行なう、3)景観の変化の理由を明らかにする。

  1. 方法・分析

研究プロセスは次の五段階に分けられる。第一段階として、今回の分析を実施する範囲を決定した。本研究は遺産地域の中心部に位置する16村を含む。PSMVによって遺産地域内でも優先的に保全されるべき重要な地区とされている。第二段階として、必要なデータの収集を行なった。最新の景観のデータに関しては、2016年から2018年にかけて1500件の建造物の属性データを収集した。第三段階として、収集されたデータをGISに入力した。データ入力後、現地の専門家とのディスカッションのもと建造物の属性を説明する資料を参考にしながらデータの正確性を確認した。第四段階として、6つの建造物の属性(建物の使用方法、建築様式、建物の材料、屋根の材料、建物の階数、建物の状態)について1999年、2010年、2017年における景観を可視化、そして時系列的な比較を行なった。第五段階として、景観の変化についてさらに深く理解するために統計分析を行なった。

  1. 景観の変化の時系列的な分析結果(1999-2010-2017)
  • 特に川沿いと主要な道に面している観光施設の数が大きく増加した
  • ラオスの伝統的な建築物の数が急激に増加した。しかし、2010年以降は、その傾向があまり見られなかった。
  • ラオスの伝統的な材料をもつ建造物の数が減少した。
  • ラオスの伝統的な材料を使用した屋根をもつ建造物の数が大きく増加した。
  • 2階建ての建造物の数が増加した。
  • 保全状態が優良と評価された建造物の数が大きく増加した。

さらに、上記の変化の理由を明らかにするために2017年5月に203人の現地住民に対してアンケート調査を実施した。現在は、調査結果を分析している。これらの分析に基づく研究結果は、今後の世界遺産地域内に適用される規制の改定を行なっていくうえで役に立つ参考資料になると考えられる。

修士中間ポスター発表 (2018年1月)

 

33580670906_b07d1d60b0_o

 河岸景観モニタリングのためのドローンの応用(2015-2017)
  1. 背景・研究目的

ルアンパバーンに位置するメコン川の河岸は、ルアンパバーンが世界遺産に登録される際の顕著で普遍的な価値の一つとして評価されている。メコン川の景観は、ルアンパバーンが世界遺産に登録される1995年以前は、家庭菜園や森林など多くの自然に囲まれていた。しかしながら、河岸管理計画 (2015) によると、1995年以後は観光業の発達に伴い、河岸の建造物としてふさわしくない建物の増加および自然の減少が報告された。さらに自然との調和が普遍的な価値として評価されているルアンパバーンの景観価値に影響を及ぼす恐れがあるとされた。本来建築が許されていない建造物の増加、及び自然の減少が報告された。これは景観美が顕著な普遍的な価値として評価されているルアンパバーンの景観価値を下げてしまう恐れがあるからである。現状の景観分析は、道路側から撮影された写真しか含まれておらず、河岸側からの詳細な景観は含まれていなかった。

山口・高田研究室の2015年の現地調査では、河岸管理計画(2015) を補完するには河岸景観の現状を正しく分析することが必要であると考えた。それを受け、本研究では、次の4点を研究目的とした:1)河岸景観モニタリングにおいて適切なモニタリングツールを特定し、その活用法を分析する、2)景観データの作成を通じて、メコン川河岸の景観を可視化する、3)長期的な視野に立ってモニタリングを継続するための河岸景観分析手法を開発する、4)開発された手法を用い、メコン川河岸における景観を分析する。

  1. 方法・分析

研究プロセスは、主に四段階に分けられる。第一段階として、河岸景観モニタリングに用いられるモニタリングツールを特定した。方法としては、初めに現地調査と持続可能性の観点から、モニタリングツールに求められる要件を特定した。その後、文献調査および現地でのディスカッションにより最適なツールを抽出した上で、比較検討を実施し、ドローンをモニタリングツールとして特定した。第二段階として、第一段階で適切なモニタリングツールとして特定された機材を用いて河岸景観の可視化を実施した。第三段階としては、河岸景観評価ツールの開発を行った。その過程の中で、景観評価を効果的に行うために「河岸管理計画」に沿ってメコン川河岸景観の保全のための重要なクライテリアを特定した。第四段階として、現状の河岸景観を理解するため、景観データと景観評価ツールを用いた現状の景観分析を実施した。分析は現地DPL専門家と共同で行われ、ワークショップにて今後のモニタリングツールの活用法が話し合われた。

  1. 分析結果

景観分析を通して、河岸管理計画 (2015) で、河岸に位置する建造物としてふさわしくない建物が確認された。10人の景観評価者が参加した自然環境の景観分析では、合計で14か所の景観規則を満たしていないエリアが確認された。また14か所中5か所で、評価者全員によって河岸管理計画(2015) と大きな差異が確認された。その中で、建築部門長は、ボートの所有者が休憩をする場所として河岸にテントや倉庫を建設、及び保有していると指摘した。そこで今後の河岸景観保全には、ボートの所有者の保全に対する意識の向上が必要だと確認された。また建造物の景観分析では、32件の建造物のうちの22件が景観規則を満たしていないと確認された。今後の河岸景観保全には、所有者の保全意識の向上が必要だと確認された。本景観分析によって得られたデータは、上記に挙げた建物の所有者に対して景観規則を遵守することの重要性を理解してもらうための重要な情報として役立つことが明らかになった。

修士論文中間発表資料 (2017年3月)

修士論文 (2017年3月)

 

pondsandwetlands
GISを活用した湿地帯の分析

ルアンパバーン内には183もの沼や湿地が存在し、それらは洪水防止や豊かな生態系を促進する保水機能など重要な役割を果たしている。東工大とルアンパバーンの世界遺産局(DPL)は2014年にベースライン調査を行い,沼や湿地の状況の変化を確認した。その結果として、1)GISを用いた沼及び湿地の時間的変化の可視化 2)沼及び湿地の変化の理由 3)沼及び湿地保全に対する人々の態度の解析 以上3点の解析結果が得られた。この研究成果は沼及び湿地保全に関する効果的な施策をつくりあげる際に非常に役立つ情報を提供する。

修士論文発表 (2016年3月)

修士論文 (2016年3月)

 

Yew Siang Poong in launching ceremony of mobile learning
住民の世界遺産保全への意識向上に向けたモバイルラーニングアプリケーションの開発

ルアンパバーンを保全していくうえで、世界遺産保全に対する住民の意識を向上させることが急務であった。それを踏まえて、この研究ではモバイルラーニングアプリケーションを開発し、Modified Protection Motivation Theoryをもとにアプリケーションによる影響を検証した。

220人の大学生に対してアンケート調査を実施した。その結果、次の4つの要素が世界遺産を保全に対する行動に影響していることを明らかにした:1)perceived severity、2)Response efficacy、3)Perceived resident effectiveness、4)Perceived benefits of inscription。この研究結果は、世界遺産を管理する専門家が世界遺産保全に対する大衆の意識向上に不可欠な要素を明らかにするのに役に立つ。

アプリケーションは、Google Plystoreからダウンロードできます。

博士論文発表 (2016年2月)

博士論文 (2016年2月)

 

DSC_1042
建築許可データベースの開発と運用(2013-2015)
  1. 背景・研究目的

DPLのICTスタッフと東工大は、協働してフリーオープンソフトウェア(FOSS)を使ったデータベースを開発した。そのデータベースの一つに、2007年に遺産地域内における建築を許可する処理を効率的に行う目的で開発された建築許可データベースがある。しかしながら、このデータベースは持続可能な運用をしていく上で問題があり改善される必要がった。

本研究では、上記のニーズを受けて、建築許可データベースの持続可能な運用にむけた次の3点を研究目的とした:1)文献調査および現地でのディスカッションをもとに現在のデータベースの問題を分析する、2)現地のコンテクストを考慮しながら応用可能なデータベースを開発する、3)データベースの有用性を評価する。

  1. 方法・分析

研究プロセスは主に5段階に分けられる。第一段階として、建築許可データベースに関する現在の問題やニーズの分析を行なった。具体的には、ICTスタッフや建築部門のスタッフとディスカッションや彼らにインタビューを行なった。第二段階として、現地のスタッフと協働して可能な解決法を考えた。第三段階として、可能な解決法をもとにデータベースを改善した。解決法は、次の三つのプロセスから構成される:1)現地にて現地の専門家に対してデータベースの管理にむけた訓練を実施する、2)訓練後データベースを改善する。第四段階として、改善されたデータベースの評価を実施した。テストを行ないデータベースのユーザーインターフェースの観点から有用性を評価したり、ユーザーにインタビューを行なった。第五段階として、評価結果をもとに現地のスタッフとのディスカッションを通してさらなる改善を図った。

  1. 分析結果

これらの評価を通して、ユーザーに使いやすいインターフェースにすることはデータを入力に要する時間を大幅に短縮できることが確認された。またユーザーの建築許可データベースに対する態度にも変化が見られた。彼らの仕事の中にデータベースを取り入れるようになった。それと同時にデータベースを持続的に管理していくために、ICTスタッフに対する定期的な訓練やユーザーのためのデータベースに関する書類の作成が必要であることが確認された。本研究のようなデータベースを改善するための知識やスキルを継続的に高めていくために、次の二点が必要であることが確認された:1)理解しやすい参考資料を作成する、2)資料を現地の言語に翻訳する。本研究によって改善された建築許可データベースは、DPLスタッフの日常の活動に取り入れられ、定期的な訓練と知識やスキルの継承によって持続可能な運用が可能となることが期待された。

修士論文発表 (2015年2月)

修士論文 (2015年2月)

 

VR
景観を可視化・分析するためのバーチャルリアリティーパノラマの導入

この研究では、街並みの可視化に適した技術を活用した持続可能な街並みのモニタリング手順を構築し評価を行なった。

まず街並みを可視化技術に関する文献調査を行い、選び出した技術の適用可能性について比較分析を行なった。その結果、バーチャルリアリティパノラマが最もルアンパバーンの街並みの可視化に有効であることが明らかとなった。その後、ストリートビューを使ったモニタリング手順を構築した。ストリートビューは、高度な技術を要求せず、また使用するスキルは日々の使用によって自然と身につくため、持続可能なモニタリングツールとして役に立つ。

修士論文発表 (2013年2月)

修士論文 (2013年2月)

 

juy
知識管理システムの導入

チームメンバー間で情報を検索・共有するのに便利である地理管理システムを導入・運用した。

現地の状況の観察やニーズ調査をもとに、Evernoteが東工大とDPL間で情報を管理したり共有したりするのに有効なサービスであることが分かった。そのため、Evernoteが導入された。このシステムは、新しいメンバーへの知識の伝承にも役に立ち、プロジェクトの持続可能性にも貢献する。

フィールドワーク報告書(2010年10月)

修士論文発表 (2012年8月)

修士論文 (2012年8月)

 

786
GISを活用した6村における景観の変化の分析(2008-2017)
  1. 背景・研究目的

世界遺産地域の保全に向けた活動は、1995年から世界的に注目を浴び始めた。世界遺産登録によって観光客が急激に増加することで観光施設などの開発のニーズが高まり遺産地域内の経済が活性化していく一方で、開発による近代化によって世界遺産の価値が損なわれているからである。ルアンパバーンは、東南アジアの中でも歴史的に重要な街であり、1995年に世界文化遺産に登録されて以降、観光客増加による開発の圧力によって同じような状況に直面していた。しかしながら、そのような状況に直面していることが明らかではあるものの、街が実際にどのように変化しているかを示す証拠資料が十分ではなかった。

上記のニーズを受けて、ルアンパバーンにおける持続可能な世界遺産開発を実現する手段として遺産地域全体におけるGIS を構築し、街並みの変化について分析すると共に,これを持続可能な形で運用・更新するための方法論を実践的に検討することが課題となった。それを踏まえ、本研究では次の3点を研究目的とした:1)ルアンパバーンにおけるGISの持続可能な応用のために重要な要因を探求する、2)1999年から2009年までのルアンパバーンにおける景観の変化を明らかにする、3)景観の変化の理由を現地のステークホルダーへの調査で明らかにする。

  1. 方法・分析

研究プロセスは、四段階に分けられる。第一段階として、GISの応用に向けた準備を行なった。GISを応用するために3つの問題の解決に努めた:1)データの不足、2)不効率なデータ管理、3)デジタルベースマップの不正確性。第2段階として、パイロットサイトを決定した。パイロットサイトとして、遺産地域の中心部に位置する6村が選択された。第三段階として、GISを実際に導入した。GISの応用として、データの収集や、適切なデータベースの開発、信頼度の高いデジタルベースマップの開発を行なった。第四段階として、GISを活用した景観の変化の分析を行なった。分析には、世界遺産マスタープラン(PSMV)から抽出された七つの属性(建物の使用方法、建築様式、建物の材料、屋根の材料、建物の階数、建物の状態、建物のサイズ)に基づいて、1999年と2009年における景観の比較を行なった。その後、分析結果を補完するものとして現地のステークホルダーに対して景観の変化の理由に関する調査を行なった。

  1. 分析結果

分析結果を通して、景観は四つの側面から大きく変化していることが分かった。第一に、河岸や道路に沿って位置する建物が住宅から観光施設に変化していることが証明された。第二に、特に河岸に面する建物は近代的な建築様式からラオスの伝統的な建築様式に改築されている傾向がみられた。第三に、6村全体において建物の材料が伝統的なものから近代的なものに置き換わる傾向がみられた。第四に、近代的な屋根の材料から伝統的な屋根の材料に置き換わっている傾向がみられた。また、上記に加えて、観光施設が増加しているにもかかわらず、建築様式や屋根の材料に関しては近代的なものではなく伝統的なものに移行していることも確認された。これは、PSMVが景観の変化に大きく影響しているからだと考えられる。この研究で得られた科学的な分析結果は、今後ルアンパバーンを保全していく上で遺産地域の景観の変化を理解するのに役立つことが明らかとなった。

博士論文発表(2017年8月)

博士論文 (2017年8月)

 

こちらは、最近の研究に関連した出版物になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Print Friendly, PDF & Email